守るだけの農政と決別を 乗れねば悲惨、TPP交渉 論説委員長 平田育夫 :日本経済新聞:この記事、熟読に値する。最近、日経記事への直リンクが禁止されてしまったので、敢えて記事全文を記録のために残しておく (Readmore 部分に):
"農本主義者で、戦中に農相を務め「農政の神様」と呼ばれた石黒忠篤がこんな言葉を残している。
「農は国の本なるということは、決して農業の利益のみを主張する思想ではない。……国の本たらざる農業は一顧の価値もない」
現代の“農本主義者”も「国の本」が何か、よくよく考えてほしいものだ。"
引用:
守るだけの農政と決別を
乗れねば悲惨、TPP交渉 論説委員長 平田育夫
この機会を逃せば永遠に後悔する。そんなときが人にも国家にもある。
菅直人首相が目指す環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加もその一つだろう。あまたの自由貿易圏構想のうち、日本にとってとりわけ重要である。
だが――。「貿易自由化には反対」とパブロフの犬よろしく、農業関係者は早速、抵抗している。
食料の安全保障は大切だ。だが農家を守るだけの農政は競争力を弱め、担い手を減らし、耕作放棄を促して破綻した。自由化に耐えられる強い農業をつくらなければ、日本人は永遠に後悔することになる。
にわかに脚光を浴びるTPPの基はチリなど4カ国が始めた自由貿易協定だ。米、豪など5カ国が加わり今春に米主導で協定拡大・改定の交渉を開始。日本も無視できなくなった。
無視できない理由はまず米国中心の大経済圏になり得ること。カナダ、韓国が関心を示し中国も情報収集に動く。日本も加わればEU(欧州連合)を上回る。
東アジアでの中国の影響力拡大をけん制する効果もあろう。しかも既存の協定の拡大なので、早く、確実に実現する。
また関税撤廃の例外品目を厳しく絞るほか、知的財産権保護なども含む中身の濃い協定となる。
経済圏は非情なもの。そこに入れば関税がゼロになり輸出は伸びる。だが入らないと米国など参加国への輸出が関税分だけ不利になる。競争が厳しい自動車業界などは生産拠点を協定参加国に移すだろう。
米政府は来年秋の交渉妥結を目指す。早く交渉に加わらないと、日本の主張を反映できない。
この大事な時期に農林議員の対応は十年一日のごとし。慎重派与党議員110人が開いた勉強会では「国家存亡にかかわる」という政府批判も出た。むしろ協定不参加だと、国家存亡にかかわるのではないか。
農家・農業対策を示せない菅内閣も問題である。
民主党の農政方針はクルクル変わった。2001年の参院選公約と03年のマニフェスト(政権公約)では強制的な減反の廃止と、専業的農家に限った直接支払いをうたっていた。
その通り実施すれば、コメなどの生産拡大による価格低下と農地の規模拡大が実現し、関税引き下げも可能になるはずだった。
それが04年の参院選では直接支払いの対象農家を絞らないと変更。08年には減反の必要性を認める。こうして、減反を続けながら、小規模農家にも配る戸別所得補償案が生まれた。
農家の票を重視する小沢一郎元幹事長の意向が強く働いたとみられている。
コメに限らず、小規模農家などへの保護は手厚い。保護は財政支援(納税者負担)と関税(消費者負担)からなる。日本は特に関税による保護が大きい。
農家保護を数値化すると関税による保護の割合は日本が88%とEUの45%の2倍近い。図のように高関税の品目も多く、貿易自由化の妨げになっている。
「3白」と呼ぶ白い食物のコメ、砂糖、牛乳は生産者の力が特に強く、関税率に反映している。
政治力で高関税を維持するようでは、グローバル時代に生き残れない。せめて関税による保護から財政保護に変える必要がある。
農水省元幹部の山下一仁・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹は、日本で食べる短粒種の中国産米が値上がりし、日本米に近づいた事実に着目する。
「今のような高関税の必要性は薄れている。農地の集約を促すような所得補償方式に変え、減反もやめれば、規模の大きな農家を中心に生産が増え価格が下がる。その結果、関税を撤廃できるだけでなく中国などにコメの輸出を増やせる」と解決の方向を示す。
内外価格差が縮小してきた乳製品も同じような方法をとれるとみる。
どんなに努力しても外国産にかなわない作物については、農家に転業を促す道もあろう。米国には政府が転業を助ける「貿易調整支援制度」がある。
一時的に財政支出が膨らんでも、減反奨励金を廃止し、農業土木をさらに削れば、長い目でみてかなりの財源を手当てできる。
農水省出身でTPP問題の調整役を務める平野達男内閣府副大臣は「農村の高齢化で後継者対策が必要な今は改革の好機だが(TPP参加に)1~2カ月で結論を出せるものではない。個人的には超党派で話し合うべきだと思う」と早期の議論開始を呼びかける。
それでも来年春に統一地方選を控え、農林議員らの抵抗は続くのだろう。
振り返れば自民党政権の時代も農家には深情けで、そのやり方も稚拙だった。ウルグアイ・ラウンド(多角的通商交渉)では6兆円強の対策費を温泉ランドや農道空港などに浪費し、競争力向上に役立たなかった。
ひたすら農家に甘いだけの農政では農業の将来はないし、日本経済を窮地に追い込んでしまう。
農本主義者で、戦中に農相を務め「農政の神様」と呼ばれた石黒忠篤がこんな言葉を残している。
「農は国の本なるということは、決して農業の利益のみを主張する思想ではない。……国の本たらざる農業は一顧の価値もない」
現代の“農本主義者”も「国の本」が何か、よくよく考えてほしいものだ。
2 件のコメント:
いいこと言ってると僕も思いました。TPPぜひやってほしい。
http://www.economist.com/node/17472720?story_id=17472720&fsrc=scn/tw/te/rss/pe
Japan’s farm sector holds the economy hostage
農村が日本経済を人質に、という記事がEconomistに出てますね。その人質も、もう死亡寸前。
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